北広島町の里山を高い位置から見下ろした朝霧の風景

北広島町 移住ガイドブック改訂の設計資料 第一版

一次情報にもとづくペルソナと章構成

移住ガイドブック制作意見交換会 提出資料 / 2026年8月5日

この資料は第一版である。町の移住相談窓口の問合せログと「定住者の声」24件の原本が入れば更新する。英国政府デジタルサービス(GDS)が同種のペルソナを公開した際も「新しいデータが入るごとに発展させ続ける」と明記していた[36]。完成品ではなく、更新される設計図として読んでほしい。

範囲について。この資料はガイドブックの設計材料に限定している。移住施策全体の計画(数値目標・予算・体制)は町の総合戦略の領分であり、ここでは扱わない。ただし第4章のデータ棚卸しは、ガイドブック以外の施策検討にもそのまま使える形で整理してある。

第1章 現行のペルソナシートに足りないもの

会議室の机に散らばる白紙の書類とペンの情景

1-1. まず、これは特別に杜撰な話ではない

ペルソナ手法を使うと称する組織のうち、実際に現地調査を行っているのは5%未満である。Jared Spoolの調査による。

最近、私たちはペルソナを使っていると自称する数十の組織を対象に調査を行った。実際に現地調査を行ってペルソナに反映していた組織は5%に満たなかった。残りの95%は、社内の当て推量だけで記述を作り上げていた。[29]

つまり調査なしでペルソナを書くのは、行政に限らず民間企業でも95%がやっていることだ。 この章は誰かの仕事を責めるためのものではない。作り直しの起点を定めるために、現行シートに何が入っていて何が入っていないかを機械的に確認する。

1-2. 移行の「4つの力」で測る

人が現状から新しい状態へ乗り換えるとき、4つの力が働く[25]

押す力

今の状況が抱えている問題。人が探し始めるきっかけになる摩擦・不満・行き詰まりの瞬間

移住の場合: 今の暮らしへの不満

引く力

新しいやり方が持つ引力。自分のために思い描く前進の見通し

移住の場合: 新しい暮らしの魅力

不安

未知への恐れ。「うまくいかなかったらどうしよう。恥をかいたらどうしよう」

移住の場合: 移住して失敗しないか

慣性

すでに知っていて、すでにやっていることが持つ、心地よい惰性

移住の場合: 今のままでいることの楽さ

(英語の原文は巻末の出典[25]に併記した。以下、英語の引用はすべて同じ扱いとする。)

判定式は、押す力 + 引く力 > 不安 + 慣性 のとき乗り換えが起きる。

現行シートをこの4つの力に分けると、こうなる。

押す力

家が狭い / 時間に追われHP残量ゼロ / 公園が混む / 夫が寄り添わない / 社会からの置いてけぼり感

厚い

引く力

広い家 / 職住保育15分圏 / 温かい見守り / 自分の書斎 / 夫婦の余白

厚い

不安

記載なし

ゼロ

慣性

記載なし

ゼロ
都市の狭い賃貸リビングにおもちゃと洗濯物が散らばる夕方の情景

不安と慣性がゼロだと、判定式は必ず成立する。つまりこの人物は必ず移住する。 実在する人間は必ず不安と慣性を持つので、必ず移住する人物像は実在しない。

これは感想ではなく構造の話である。そして実務上の帰結がある。

ガイドブックが動かせるのは不安と慣性だけだ。 押す力は読者の生活の側にあり、引く力は町の実体の側にある。紙で下げられるのは「わからないことへの不安」と「動くことの面倒」だけである。したがって不安と慣性を書いていないペルソナからは、ガイドブックの中身が1行も導けない。

1-3. 書き始める順序が逆になっている

共感図(エンパシーマップ)の2017年改訂版は、記入の順序を明示的に変更した。見えること→言っていること→していること→聞いていること(観察できること)を先に埋め、最後に中心の考えていること・感じていること(観察できないこと)を埋める。

思考と感情は、推測したり推論したりはできるが、観察することは決してできない。

現行シートは「夜、寝顔を見ながら罪悪感でいっぱいになる」「ママ以外の私の場所ってどこ?」という、観察不可能な内面から書き始めている。 感情の解像度は行政資料として異例に高い。ただし出発点が逆である。

1-4. 行動が書かれていない

ペルソナの区別は行動でつけるもので、人口統計でつけるものではない[27]

ペルソナ同士の重要な違いは行動によるものであり、人口統計上の属性によるものではない。

現行シートの構成要素は、34歳、世帯年収900万円、東京23区、賃貸2LDK、無印良品、観葉植物、カフェラテ、Voicy、『北欧、暮らしの道具店』、『LEE』。これは属性と嗜好であって行動ではない。

第4章で立てる9つの行動変数に現行シートを当てると(配布された1枚の記載範囲では)、5つが空白になる(地縁の種類、住まいの取得手段、冬季運転の経験、検討段階、移住の契機)。

就業と通勤については、「在宅で仕事する夫」という記述があるため、在宅勤務を示唆する材料はある。ただし示唆であって、移住後にその働き方を続けられるのかという手段の話は書かれていない。 ここは空白ではなく「未確定」である。

意思決定の主導者も、妻の感情だけが描かれ夫は「優しいが解決策ばかり言うIT職」という小道具になっている。移住は世帯の意思決定であり、拒否権を持つ側を描いていないペルソナは意思決定モデルとして機能しない。

1-5. 記述が実データに紐付いていない

これがもっとも重い基準である。

記述のどの部分も実際のデータに結び付けられないなら、それはペルソナではない。創作物であり、重要な設計判断や事業判断の材料に使ってはならないものである。[26]

「創作だ」ではなく「重要な判断に使うべきでないものだ」という基準である。現行シートには出典の提示がない。

1-6. そして、想定された引く力が実地で反証されている

現行シートは「時間に追われHP残量は常にゼロ」の都市生活から「時間のゆとり」へ、という物語を描いている。

北広島町に実際に移住し、その後町を離れた人の記録がある。町と県の移住者記録にも登場する20代の女性で、2017年3月、22歳で旧芸北町(雲耕)へ移住した。動機は「山の猟師に、憧れていたから」で、地縁はない。移住後は農業法人に勤め、地域の保育士不足を受けて春夏は農業・冬は保育園、さらに地元猟友会に所属して猟に出た。

そして町を離れた。本人が公開のインタビューで理由を語っている。

そんな心の充実とはうらはらに、体には無理がきていて貧血で倒れてしまいます。[18]

転出先は親族の空き家がある江田島市だった。地縁のない土地へ憧れで飛び込み、体調を崩して離れ、地縁のある土地へ移ったという構図である。

私は2022年の初め、一身上の都合から北広島町を離れた。[17]

(この事例は出典間で記述が食い違う点が2つある。転出時期はSUUMOタウンの本人エッセイが「2022年初め」、山根木材のインタビューが「2021年3月」。転出先の親族も前者が「曽祖父」、後者が「祖父」と記録している。どちらも本人が語った内容として記事化されているため、断定せず両方を併記する。)

本人の書き分けについて一点付記する。 本人自身のエッセイ[17]では転出理由を「一身上の都合」とし、健康に関する記述は別媒体のインタビュー[18]にのみある。媒体によって語り方を選んでいる可能性があるため、この資料では氏名を記載しない。 ガイドブック本体にこの事例を載せる場合は、本人の許諾を得ることを前提とする。「移住の失敗例」という枠づけは本人のものではない。

雪国に移住した当事者の記録にも同じ方向のものがある。

降り続くと1〜2時間の除雪を日に3回程やる時もある[47]

そして家にいる時間が長い私が大体除雪を担当する事になる[47]

夫も最低限しか除雪はやらない[47]

「田舎に行けばゆとりができる」という引く力は、少なくともこれらの事例では成立していない。 現行シートの中心的な訴求が、実在の移住者によって反証されている。ここが最も直さなければならない箇所である。

1-7. 現行シートの良い点

感情描写の解像度は、行政資料として異例に高い。「夫は優しく家事も手伝うが、悩みを言うと『断捨離しよう』と解決策ばかり言ってくる」という記述は、実在の夫婦の摩擦として具体的である。素材として捨てる必要はない。 第5章のペルソナの押す力の部分に、この解像度を移植する。

第2章 ペルソナの作り方(前提の共有)

白い壁に貼られた無地の付箋の集まり

作り直しの手順を先に示す。以降の章はこの手順に沿っている。

2-1. ペルソナには3種類ある

ニールセン・ノーマン・グループの分類[30]

種類調査適する場面
調査前の仮ペルソナ新規調査なし。2〜4時間のワークショップで作る着手時にチームの思い込みを可視化する
聞き取りに基づくペルソナ5〜30件のインタビュー多くのチームにとっての適正域
統計に基づくペルソナ質的調査の後、100〜500件以上のアンケートと群分けの分析大規模サービス

調査前の仮ペルソナについてニールセン・ノーマン・グループはこう書いている。

調査前の仮ペルソナは調査に基づいていないため、利用者の実像を誤って伝えることが多く、チームの思い込みが増幅されるだけの反響室になりかねない。[30]

現行シートは調査前の仮ペルソナである。 手法として存在するものであり、着手時の道具としては正しい。ただしガイドブック全体の設計根拠にする段階のものではない。この資料が目指すのは聞き取りに基づくペルソナである。

なお「ユーザー調査は5人でよい」という通説があるが、あれはユーザビリティテスト専用の話である[32]。同じ記事が定量調査には20人以上必要と明記している。探索的なインタビューに5人ルールを持ち込むのは誤用である。

2-2. 手順

手順内容根拠
1調査計画を立て、ペルソナの種類とサンプル数を先に決める[30][32]
2インタビューは意見でなく過去の具体的行動を聞く[45][44]
3人口統計ではなく行動変数を抽出する[27][33]
4対象者を変数軸に配置し、群を見つける[34][27]
5ゴール・行動・環境・態度を先に固め、人格的装飾は最後に最小限[27]
6主ペルソナを決め、対象外ペルソナ と 受け入れ側ペルソナ も明示する[34]
7状況文で成功の定義を言語化する[35]
8記述の各文に出典を付け、反証可能にする[28]
9使い方(シナリオ・設計原則)とセットで運用する[29]
10更新の頻度と条件を最初に決める[31]

手順 2について具体的に書いておく。「北広島町に住んでみたいですか」は意見であり未来の話なので、答えを信じてはいけない[45]。聞くべきは実際に取った行動である。下見に来たか、住宅ローンの相談をしたか、空き家バンクを見たか、家族に話したか。

またインタビューの前に、こちらの仮説を全部書き出しておく[44]。「忙しい生活を送っていますか?」のような、答えを先取りする質問を避けるためである。現行シートの「時間に追われHP残量は常にゼロ」は、この種の誘導質問の答えの形をしている。

手順 10について。更新頻度と成果の自己評価には対応関係がある。156名のUX専門家調査で、四半期以上の頻度で更新するチームは5.5/7、1〜4年ごとが4.5/7、5年以上または未更新が3.9/7だった[31]更新しないペルソナは使えなくなる。 この資料も更新条件を第8章に書く。

2-3. 県内に前例がある

総務省の「効果的移住定住推進施策事例集」(2021年3月)に、広島県福山市の事例が載っている[23]

社会増減のターニングポイントやライフスタイルに応じて9つのペルソナ(政策ターゲット)を設定。ペルソナの満足度を高める施策を展開。

9つは市の施策全体の政策ターゲットの数であり、そのうち「移住」に対応するペルソナが2つである。 その1つが「移住希望の既婚男性(備後圏域出身、関西圏在住)」で、出身地=地縁をペルソナの定義に明示的に含めている。

つまり福山市は、施策の領域ごとにペルソナを分け、移住についてはさらに2つに割っている。「ペルソナは1体作るもの」ではないという実例が、県内にある。

同じ事例集は、施策を6つの段階に分けている。

①移住関心層への広報 → ②情報収集 → ③仕事 → ④住まい・生活 → ⑤心理面 → ⑥決断

この段階は、現行ガイドブックの「移住へのステップ Step.1〜6」とほぼ対応している。 現行の構成は国のフレームと整合しており、捨てる必要はない。第7章でこれを土台に使う。

第3章 何をどこから集めたか

広い木の机に重なる地図と資料の紙

3-1. 集めた一次情報

種類内容件数・状態
町の統計・計画人口ビジョン、総合戦略(第2期・第3期)、人口・世帯原典PDFを全文確認[1][2]
制度広島県移住支援金、町Uターン奨励金、空き家活用補助、保育料無償化、子ども医療費条例原典を確認[3][4][5][10][11]
インフラ気象庁平年値、広島県保健医療計画、地価公示、公共交通、学校原典を確認[6][7][8][9][40][12][13]
移住者の記録氏名・出発地・移住先が判明したもの25件[15]
移住者の記録(内容まで)本人または町・メディアの記事で内容を確認できたもの12件[16][17][18][19][20]
転出者の記録町を離れた人の一次記録1件[17][18]
現行ガイドブック全16ページを確認[14]
全国調査パーソル総合研究所、内閣官房、総務省、ふるさと回帰支援センター原典を確認[21][22][23][24]
方法論Cooper、Goodwin、ニールセン・ノーマン・グループ、Chapman & Milham、Spool、ジョブ理論、GDS等[25][36][44][45]
競合自治体広島県内9市町、群馬・静岡・山梨・長野・島根・鳥取[41][42][43]

3-2. 取れなかったもの(先に書く)

3-3. この収集方法の構造的な弱点

Web上の情報だけを集めると、いちばん件数の多い層が抜け落ちる。

移住記を書くのは、移住そのものが人生の物語になる人である。遠方から来た人、自営業、作り手、地域おこし協力隊。広島市から車40分の町へ引っ越して勤め先を変えずに働き続けている人は、それを「移住」と呼ばず記事にも書かない。生活圏内の住み替えだからだ。

事実で裏付けられる。県の公的移住メディアHIROBIROに載っている北広島町の事例は4件で、職業は酒蔵・画家・木版画作家・ベーグル店[16]全員が自営である。会社員は1人も載っていない。

したがって、この資料が最も自信を持てない部分は、最も件数が多い層についてである。 第5章の主ペルソナにその弱点を明記した。

第4章 誰が実際に来ているか

山あいを縫って合流する二本の道路の俯瞰

4-1. 出発地の分布

町と広島県が公開している移住者インタビュー25件(県のイジュー広島に24件、町サイトに1件)のうち、出発地が判明した22件[15]

広島市
45%
10件
広島県内その他
(府中町、尾道市)
14%
3件
東京都
14%
3件
神奈川県
9%
2件
大阪府・京都市・
沖縄県・島根県江津市
18%
各1(計4)

広島県内が13件で59%、うち広島市だけで45%。 移住先は吉木・志路原・大朝・本地・戸谷・阿坂・中祖・春木・雲耕・荒神原・雄鹿原と、行政区単位で広く散っている。

町の人口ビジョンの転入内訳(平成17〜22年の5年間累計)も同じ方向を示す[1]

相手先転入転出
広島市888人911人
安芸高田市129人112人
安芸太田町66人40人
三次市57人39人
邑南町(島根県)50人

広島市が2位の安芸高田市の約7倍である。 ただし同じ表で広島市に対しては転出超過(転入888人・転出911人)であることも併記しておく。出発地として最も多いことと、差し引きで増えていることは別の話である。

4-2. この町は通勤者を受け入れる側である

人口ビジョンにもう一つの数字がある[1]

通勤等に伴う人口移動では、全体で流入が流出を上回り、昼夜間人口比率は107.2%となっています。流入・流出ともに広島市との関わりが強く、広島市からは2,121人の流入、1,151人の流出となっています。

これは平成22年(2010年)国勢調査の通勤の数字である(住民票の移動ではない。人口ビジョンp.27およびp.40)[1]広島市に住んで北広島町へ働きに来ている人が2,121人。逆方向が1,151人。流入が流出の約1.8倍である。

早朝、山あいの道路を奥へ走る一台の車の後ろ姿

この数字は最新値ではない。 15年以上前の国勢調査に基づくため、ガイドブックに載せる前に最新の通勤流動を町で確認する必要がある。加えて、人口約1万6千人の山間の町が通勤の純受入側であるという点は直感に反するので、会議では原典の該当ページを示せるようにしておく。

町内に雇用がある。実際の事業所を挙げる。

事業所内容規模
広島イーグル株式会社自動車用ウォーターポンプ部品従業員202名(2021年12月)、年間休日115日[38]
熊平製作所 千代田工場防盗金庫・耐火金庫千代田工場27名[38]
株式会社イノアック(北広島町壬生)[38]

工業団地が6箇所あるとされ(この数は民間の移住情報サイト経由で、町の公的資料では確認できていない)、町と商工会が求人サイト「北広島町企業ガイドWEB」を運営している。サテライトオフィスの貸出オフィス4室は2025年12月時点で満室である[37]

これが重要な理由は、移住検討者の最大の不安がここにあるからだ。

内閣官房の意識調査(令和2年9月、東京圏 n=1,552)で、移住を検討する際の不安の上位3つ[22]この設問を含む調査としてはこれが最新である(同種の後継調査は令和5年3月版・令和7年2月版・令和8年3月版と続いているが、対象が20代の若年層に絞られており、不安要素を同じ形で尋ねた設問は確認できなかった。詳細は巻末の[22]の注記)。

順位不安要素割合
1求めている業種・職種の働き口が見つからないこと39.4%
2生活利便性(買い物、交通利便性など)が低いこと35.6%
3現在と比べ賃金が安くなってしまうこと34.2%

1位と3位が仕事と賃金である。 「田舎には仕事がない」という思い込みに対して、この町は数字で応えられる立場にある。

4-3. 群馬・静岡とは同じ試合をしていない

現行のペルソナシートの余白に、手書きで「ぐんま」「しずおか」と書かれていた。競合の想定と読める。この2県の移住施策を確認した[43]

自治体訴求の核
高崎市(群馬)東京駅〜高崎駅 新幹線で42〜59分(標準的な列車で48〜51分)
みなかみ町(群馬)新幹線通勤費補助金。上毛高原駅が対象で、定期券代から会社の通勤手当を差し引いた額の3分の2を補助。上限は条件により月1万円〜3万円、期間は最長3年(年度不明)
富士宮市(静岡)移住者首都圏通勤支援助成金 最大10万円。新幹線通勤費そのものではなく、新富士駅周辺の月極駐車場代の助成(年度不明)

この群の商品は「東京の仕事を維持したまま住み替える」である。 北広島町の場合、東京から広島駅まで新幹線で約4時間(のぞみの平均所要3時間54分。臨時を含む全列車が4時間以内)[49]、そこから町まで高速バスで約1時間[40]乗り継ぎを含めて片道5時間前後になる。 現行ガイドブックのアクセスマップも同じ構成で、広島→新大阪1時間30分、新大阪→東京2時間30分、広島駅→北広島町 高速バス1時間と区間ごとに記載している[14]新幹線通勤という商品では戦えない。

さらに制度上の事実がある。令和8年度版(2026年4月7日更新)の広島県の移住支援金の対象市町一覧に、北広島町は含まれていない。 対象は18市町(広島市、呉市、竹原市、三原市、尾道市、福山市、府中市、三次市、庄原市、東広島市、廿日市市、府中町、海田町、熊野町、坂町、安芸太田町、世羅町、神石高原町)で[3]隣接する安芸太田町は対象である。

町が独自に交付するのはUターン奨励金で、対象は「過去に北広島町に住民票があった16歳以上39歳以下」に限られ、単身5万円・世帯10万円・小学生以下の子1人あたり5万円加算である[4]

つまり東京23区から縁のない世帯が移住しても、「移住したこと」を理由とする給付(国の移住支援金・町のUターン奨励金)はどちらも受け取れない。 受け取れるのは、空き家活用定住促進事業補助(事業費の1/3・上限100万円、49歳以下)[5]のように出発地を問わない事業補助に限られる。この違いは制度の性格の違いであり、ガイドブックでは書き分ける必要がある。

第2期・第3期の総合戦略本文を全文確認したところ、「東京23区」という語は一度も出てこない。「東京圏」は第1章の趣旨説明に国全体の政策文脈として1箇所ずつあるだけである。KPIは「社会動態の増加」(令和4年▲71人→令和8年30人以上)と「定住施策捕捉分による定住者数」(令和4年度50人→令和8年度のべ120人)で、出発地を問うものではない[2]

制度にも数値目標にも総合戦略本文にも、東京23区を主対象に置く根拠はない。

支援額は県内で見ても小さい

同時に、比べる相手を県内に変えても町の支援額は小さい。移住検討者は隣接する市町と並べて見るので、この事実は先に把握しておく必要がある。

自治体住宅取得・改修への支援
北広島町Uターン奨励金 単身5万円 / 世帯10万円 / 小学生以下の子1人5万円加算(対象は元町民の16〜39歳)[4]。空き家活用定住促進事業補助 事業費の1/3・上限100万円(49歳以下)[5]
廿日市市(佐伯・吉和)新築は補助率1/2で上限100万円(佐伯)・150万円(吉和)。中古購入は60万円(佐伯)・90万円(吉和)。子育て加算は6歳未満で1人30万円
庄原市移住支援金 単身60万円 / 世帯100万円 / 18歳未満の子1人100万円加算(令和5年4月1日以降の転入者が対象)。定住促進奨励金は新築80万円・中古40万円・改修40万円
安芸高田市多世代同居支援事業補助金 若者世帯80万円 / 一般世帯50万円(改修費200万円超が要件)
安芸太田町移住定住促進応援事業 対象経費の1/3・上限65万円(5年以上の居住が条件)
世羅町移住者等住宅支援事業 上限100万円(補助率は対象経費の1/10)

移住そのものへの奨励金で見ると、庄原市の子育て世帯は最大で数百万円規模になりうるのに対し、北広島町は世帯10万円である。 桁が2つ違う。

ただしこれは「金額で競え」という話ではない。 町は国の移住支援金の対象外で、独自の奨励金も元町民に限っている。金額で勝てない以上、ガイドブックが担うべき役割は「金額以外の判断材料を、他より具体的に出すこと」になる。 具体的には、地区別の積雪、通勤の実時間、二次救急の所在、空き家の実価格帯である。第6章はその一覧である。

(県内他市町の金額は令和8年度時点で確認したものだが、年度の記載が確認できなかった制度もある。会議で数字を使う場合は各市町の最新の要綱で再確認する。)

4-4. 一方で、東京からの移住は実在する

東京都からの移住者は3件確認できる[15]。加えて現行ガイドブックには渡邉ニコルさん(平成21年、東京都→芸北、異文化コンサルタント、夫婦・子2人)が掲載されている[14]。島田愛子さん(東京都→大朝、木版画作家)もいる[16]

否定されるのは「東京から」ではなく「勤務先を変えずに」である。 遠方から移住して定着した事例は、確認できた範囲で全員が自営・専門職・地域おこし協力隊のいずれかだった。

4-5. 就業の確保手段が、地縁より効いている可能性

内容まで確認できた12件の就業形態[16][17][18][19][20][14]

就業形態件数
自営・起業・専門職8
地域おこし協力隊(公的枠)3
勤め人(のちに転出)1

転出した1件を除くと、定着した11件はすべて「仕事を自分で作った」か「町が仕事と役割を用意した」かのどちらかである。 例外の1件(農業法人へ現地就職した第1章の事例)は、そのいずれでもなく、町を離れている。

地縁については、満足度に効くことが全国調査で確認できる。パーソル総合研究所の調査(2021年3月、移住経験者n=7,866)の「地域生活の幸せ実感」[21]

移住タイプスコア(5点満点)
Uターン(生まれた土地に戻る)3.53
配偶者の地縁を頼る3.47
Iターン(縁のない土地へ)3.39
Jターン(出身地の近くの都市へ)3.38
多拠点居住3.37

上位2つが地縁のある型である。 ただしこの指標は5段階評価で、最上位と最下位の差は0.16点(5点満点に対して3.2%)しかない。 Iターンは中位であり、最下位は多拠点居住型である。差が小さいことを踏まえると、この調査から言えるのは「地縁のある移住が上位に来る傾向がある」までで、「縁がなければ不幸になる」ではない。「地縁がないと成立しない」とは言えない。 実際、地縁なしで移住が成立した事例が確認できている(熊本市出身の地域おこし協力隊[20]、広島市出身で友人の誘いから空き家を取得した方[19])。ただし「成立」までであり「定着」は確認していない。 協力隊の任期後の進路は町の公表資料に見当たらなかった(第5章5-4)。

したがって行動変数として重いのは、地縁の有無より就業の確保手段である。

第5章 ペルソナ

古い日本家屋の三和土に積まれた段ボール箱と靴
縁側に置かれた泥のついた子ども用の長靴とバケツ

5-1. 9つの行動変数

#変数取りうる値
V1就業の確保手段自営・起業 / 持ち運べる専門職 / 現地就職 / 公的枠(協力隊) / 勤務先を変えず継続 / 兼業
V2出発地の圏域町内・隣接町 / 広島市 / 広島県内その他 / 中国地方外
V3地縁の種類なし / 友人・知人 / 配偶者の実家 / 自分の親族の家屋 / 過去の居住
V4移住の契機憧れ・志向 / 家業・相続 / 人生観の転換 / 友人の誘い / 仕事の公募
V5住まいの取得手段空き家バンク / 親族の家屋 / 賃貸・町営 / 新築
V6通勤の向き町内で働く / 広島市へ通勤 / 在宅勤務で完結 / 通勤なし
V7冬季運転の経験あり / なし
V8意思決定の主導者本人単独 / 夫婦の合意 / 一方が牽引
V9検討段階思いつき / 受動的探索 / 能動的探索 / 決断済み

5-2. P1(主ペルソナ) 広島市圏からの生活圏内移動

この町がいちばん多く受け入れている層。

玄関の上がり框に並ぶ車の鍵・社員証・水筒・連絡帳と革靴
変数
V1 就業勤務先を変えず継続、または町内の事業所へ現地就職
V2 出発地広島市(安佐南区・安佐北区が中心)
V3 地縁なし〜友人・知人程度
V4 契機子の就学・第2子の出生・住宅取得の検討
V5 住まい空き家バンク、または町営・若者定住促進住宅
V6 通勤広島市へ通勤、または町内で働く
V7 冬季運転なし
V8 意思決定夫婦の合意(どちらかが牽引)
V9 検討段階能動的探索

状況文

そのとき 子どもが増えて広島市内の賃貸が手狭になり、市内で家を買うには予算が届かないと分かったとき、
したいこと 今の勤め先を辞めずに、車で通える範囲で広い家に住みたい。
そうすれば 収入と職歴を切らさずに、子どもに庭のある家で育つ時間を渡せる。

地方都市郊外の集合住宅のベランダから見た同じ形の建物の並び
移住前

4つの力

押す力

市内の住宅価格と広さの折り合いがつかない。保育園と職場と家の距離

根拠: —

引く力

車40〜55分で通勤圏(40分は現行ガイドブック[14]、55分は経路検索の二次情報)。公示地価は住宅地21,600〜24,300円/㎡[9]。空き家バンクに40件(売買10〜600万円、賃貸月2万円台。2026年8月時点)[39]令和8年9月から全園児の保育料・副食費が無償化[10]。町内に雇用がある(昼夜間人口比率107.2%。平成22年国勢調査)[1]

不安

雪道を運転したことがない。子の医療。10年後の高校。地区の付き合い。冬の光熱費

根拠: [22][47][19]

慣性

今の家から動かなくても暮らせている。引っ越しと手続きが面倒。地区を選ぶ判断材料がない

根拠: [21]

早朝、山あいの民家前で乗用車のドアが開いている情景
移住後

この層に対する町の実データ

観測所標高年間降雪の深さ合計年間最深積雪1月の降雪1月の最深積雪
大朝399m319cm50cm125cm39cm
八幡(旧芸北町)774m605cm120cm201cm99cm

「北広島町は雪が多い」と一括りにすると、雪の少ない地区に住む選択肢が消える。 ただし千代田地区には気象庁の観測点がなく、積雪の公式数値が存在しない(町内の観測点は大朝399m・王泊525m・都志見400m・八幡774mの4か所で、いずれも千代田地区ではない)。ガイドブックに地区別の数字を載せるなら、この欠落をどう埋めるかを町と決める必要がある。

この層の確度についての注記

構造データは厚いが、本人の言葉が1件しかない。

確認できたのは後藤祐美子さん(広島市出身、地縁なし、民宿を営む友人の誘いで数回訪問、空き家バンクで物件購入、平日は広島市内で会社員として勤務し週末に北広島町でカフェを経営)[19]

地域の方からすると何者かわからず、壁を作られた時もありました[19]

"私が私になれる場所"があれば、自由に自分らしく生きることができると思う[19]

この層は出発地の分布で45%を占めるのに、質的データが1件である。 理由は第3章で述べたとおり、この層は移住記を書かないからだ。町の窓口ログと「定住者の声」24件の原本が、この空白を埋める唯一の材料である。

民家の台所の窓辺に並ぶ観葉植物とマグカップと文庫本

5-3. P2(副) 自営・作り手型

事例がもっとも厚い層(8件)。

古い民家の作業場の作業台に置かれた手道具と木の削り屑
変数
V1 就業自営・起業、または持ち運べる専門職
V2 出発地中国地方外が多い(東京、横浜、栃木、山口)
V3 地縁あり・なし両方(配偶者の実家、親族の家屋、なし)
V4 契機志向、家業・相続、人生観の転換(震災・病気)
V5 住まい空き家バンク、親族の家屋
V6 通勤通勤なし
V7 冬季運転なし(移住後に習得)
V8 意思決定夫婦の合意
V9 検討段階決断済みで来る場合が多い

状況文

そのとき 自分の仕事を自分の手で立てられると分かり、都市の家賃と時間がその邪魔になっていると気づいたとき、
したいこと 仕事場と住まいを兼ねられる古い家を、手を入れられる条件で手に入れたい。
そうすれば 生き方と仕事の中身を一致させられる。

実例(7件のうち6件が大朝・豊平に集積。残る1件は芸北)

氏名出発地地区仕事地縁
福光寛泰山口県光市大朝酒蔵を13年ぶりに復活母方の里[16]
森田歩武栃木/横浜大朝画家+デザイン・草刈・林業妻の実家が広島[16][14]
島田愛子東京都大朝木版画作家父のアトリエ[16]
池田裕一・沙織東京豊平ベーグル店・宿夫妻の実家[16]
峠一平広島市豊平美容師不明[14][15]
波多野浩也神奈川県横浜市豊平木工職人不明[14]
渡邉ニコル東京都芸北異文化コンサルタント不明[14]

本人の言葉。

移住するなら、敢えて不便な場所が良いと思っていました。自然が厳しく、生活にメリハリのある環境[16](島田愛子)

もっと田舎でもやっていける[16](森田歩武)

4つの力

押す力

都市の家賃と時間が制作・営業の足を引っ張る

引く力

空き家改修補助(事業費の1/3・上限100万円、49歳以下)[5]。空き家バンク40件[39]。創業支援補助(上限30万円)[38]

不安

客が来るのか。改修費が見積を超えないか(「見た目以上に構造部・水回りの劣化が進んでいる」「工事額が倍以上に膨らむケース」という記録がある)。収入が読めない

慣性

今の場所でも一応やれている。物件探しの手間

注意すべき制度の噛み合わせ: 空き家活用定住促進事業補助は「3親等以内の親族から取得した者は除く」[5]。一方でUターン奨励金は地縁のある人向けである[4]親族の家に入る人は、住宅改修の補助を受けられない。 この層の一部が制度の隙間に落ちる。

5-4. P3(副) 公的枠・遠方型

地縁がなくても成立している層。ただし町が仕事と役割を用意している。

事務机の開いたノートパソコンと地図とマグカップと旅行バッグ
変数
V1 就業公的枠(地域おこし協力隊)、または持ち運べる専門職
V2 出発地中国地方外
V3 地縁なし
V4 契機仕事の公募
V5 住まい町営、賃貸
V6 通勤町内で働く
V7 冬季運転なし
V8 意思決定本人単独が多い
V9 検討段階決断済み(採用が決まって来る)

状況文

そのとき 自分の専門を、規模の大きな組織ではなく手の届く範囲で使いたいと思ったとき、
したいこと 役割と任期がはっきりした仕事で入りたい。
そうすれば 生活の基盤を確保したまま、その土地で自分の居場所を作れる。

実例

この事例の扱いには注意が必要: 令和6年12月策定の第3期総合戦略は、同じ加計高校芸北分校について「生徒数の減少から存続の危機にある」と記載している[2]時期が近いのに評価が逆であり、指標の違い(受験者数と在籍者数)か一時的な回復かを判別できない。成功事例として単独で使わず、両方の時点と出典を併記する。

4つの力

押す力

都市の組織で自分の仕事の手触りが薄い

引く力

任期と役割が明確。住まいの手配がある。サテライトオフィスの貸出4室は2025年12月時点で満室[37]

不安

任期後に何をするのか。地縁ゼロで受け入れられるか。単身で冬を越せるか

慣性

今の仕事を辞める決断の重さ

この層の最大の不安に対して、町は答えを持っていない。 地域おこし協力隊の任期終了後の定住は、全国で同一市町村55.7%(4,477人/8,034人、2019〜2023年度終了者)、近隣自治体を含めて約68.9%とされる(総務省調査の集計値。二次情報経由で取得し、総務省の原典に到達できていない。会議で使う前に原典を確認する)。近隣を含めても約3割が離れている。 北広島町の任期後の進路を示すデータは見つからなかった。ここは町が持っているはずの情報である。

5-5. N1(対象外ペルソナ) 勤務先を変えずに東京から移り住む世帯

この町が応えられない相手を明示する。

Cooperの分類にある対象外ペルソナは、対象にしないと決めた層を書くことで設計のブレを防ぐためのものである[34]現行のペルソナシートの人物像は、ここに該当する。

夜、無人の山あいの駅のホームと闇に消える線路

応えられない根拠。

項目事実
距離東京から広島駅まで新幹線で約4時間[49]、さらに高速バスで約1時間[40]片道5時間前後
通勤新幹線通勤が成立しない。高崎は東京駅から42〜59分、みなかみ町と富士宮市は新幹線通勤費を補助している[43]
国の支援金北広島町は対象18市町に含まれていない[3]
町の奨励金Uターン奨励金は「過去に町に住民票があった16〜39歳」限定[4]
町の方針総合戦略に「東京23区」の語がない。数値目標は出発地を問わない[2]
実例遠方から定着した事例は全員が自営・専門職・協力隊。会社員のまま移った事例は0件

否定するのは「東京から」ではなく「勤務先を変えずに」である。 東京都からの移住は3件実在する[15]。自営・在宅勤務で完結・地縁のいずれかがあれば成立する。ガイドブックはこの条件を明示すべきで、条件を書かずに東京の会社員世帯を呼ぶと、群馬・静岡に構造的に負ける試合の資料になる。

応えられない相手を書くことは、応える相手への誠実さである。

5-6. S1(受け入れ側ペルソナ) 受け入れ側の集落住民

移住は片側の意思決定ではない。Cooperの受け入れ側ペルソナは、自分では使わないが影響を受ける人を指す[34]

夕方、鎌を持って農道を歩く高齢の人物の後ろ姿

根拠となる一次情報

地域の方からすると何者かわからず、壁を作られた時もありました[19]

人との距離感が近くて監視されている感じが嫌でした。むしろストレスに感じていましたよ。ところが半年、1年を過ごすうちに、相手のことを知ることが増え、安心感が大きくなってきました。今では近所付き合いが楽しくて、挨拶したりされたりする生活っていいなと思っています[46]

集会所前の土間に用意された長机と伏せた湯呑みとやかん

行事やイベントが多い地域だったり、草刈りや家の修繕が必要だったりすると、やることは多いかもしれません[14](現行ガイドブック)

「温かい見守り」と「監視されている感じ」は、同じ現象の別の時期である可能性が高い。 現行のペルソナシートは前者だけを書いた。時間軸を入れないと、この論点は扱えない。

現行ガイドブックには地元住民の声が2件掲載されている(森田隆司さん・大朝の建設業、今田さん・吉木行政区長)[14]この設計は正しいので引き継ぐ。

第6章 それでも選ばれない理由

冬の県道の両側に積み上げられた雪の壁と圧雪の路面

ガイドブックが動かせるのは不安と慣性だけである(第1章)。この章は、実際に挙がっている不安を頻度順に並べ、それぞれに町の実データを対応させる。この対応表が、ガイドブックの中身そのものになる。

6-1. 全国調査で挙がっている不安の順位

内閣官房調査(令和2年9月、東京圏 n=1,552)[22]

順位不安要素割合
1求めている業種・職種の働き口が見つからない39.4%
2生活利便性(買い物、交通利便性など)が低い35.6%
3現在と比べ賃金が安くなってしまう34.2%

6-2. 不安と、町の実データの対応表

夜の畳の部屋の座卓にノートパソコンと書類の束
仕事と賃金
民家裏手の灯油タンクとプロパンガスのボンベ
生活利便性・コスト
雪の降る夕方、車内から見た前方のにじんだテールランプ
冬道運転と雪
夜、無人の病院の待合スペース
医療
夕方の小学校の校庭とサッカーゴール
教育と進学
古い日本家屋の使われていない一室と傷んだ天井板
住まい
無人の公民館の集会室に整列したパイプ椅子
地区の付き合い
夜の台所のテーブルに離れて置かれた湯気の立つマグカップと冷めたマグカップ
夫婦の温度差

1位・3位 仕事と賃金

不安町の実データ
働き口がない昼夜間人口比率107.2%。広島市から2,121人が通勤で流入している[1]。広島イーグル202名(年間休日115日)、熊平製作所千代田工場27名、イノアック[38]。工業団地6箇所。町と商工会が運営する求人サイト。北広島町求人情報センター(無料職業紹介)[14][38]
賃金が下がる勤務先を変えずに通える。千代田ICから広島市中心部まで車40分[14](別ルート計測では千代田運動公園〜広島駅55分・51.2km・高速1,210円)。全国調査では移住者の58.6%が年収変化なし、53.4%は転職していない[21]
在宅勤務の受け皿サテライトオフィス(お試しオフィスは無料・最大3か月、貸出オフィス4室は月35,000円+管理費5,000円)。2025年12月時点で4室満室[37]
就農したい北広島町認定就農研修生制度(20〜39歳、研修2年)。創業支援補助(上限30万円)[38]

2位 生活利便性

不安町の実データ
買い物千代田地区に商業集積(千代田ショッピングセンター、ドラッグストア複数)。地区で差が大きく、大朝・芸北は個人商店中心[38]
車がないと動けないデマンド交通ホープタクシーが町内全域+安芸太田町・安芸高田市・広島市安佐町の一部まで、一乗車500円(乗継+200円、小児半額、障害者手帳所持者等300円)[40]。可部千代田線、高速バス千代田IC〜広島バスセンター1,330円[40]
車の維持費ガソリン15,000円/月の実額例[14]。町内のガソリンスタンド所在は地区別に把握可能[38]

冬道運転と雪

不安町の実データ
どのくらい降るのか 地区で約2倍違う。大朝(標高399m)は年間降雪319cm・最深積雪50cm、八幡(標高774m)は年間降雪605cm・最深積雪120cm(いずれも気象庁1991〜2020年平年値)[6][7]千代田地区には観測点がなく公式数値がない。 1月は大朝125cm・八幡201cm
除雪の負担 北海道へ移住した当事者の記録「降り続くと1〜2時間の除雪を日に3回程やる時もある」「そして家にいる時間が長い私が大体除雪を担当する事になる」「夫も最低限しか除雪はやらない」[47]除雪が誰の仕事になるかは、移住前に決めておく論点である。 現行ガイドブックも「冬は雪かきも仕事のひとつになります」と書いている[14]
雪は資源でもあるのか町内3スキー場の状況は厳しい。 芸北国際スキー場は2020年初旬の営業を最後に休業(雪不足)。芸北高原大佐スキー場は2026年2月21日で今季終了。やわたハイランド191リゾートは異常高温で2026年3月1日に早期終了[38]雪は負担として残り、資源としては失われつつある。この非対称を書かないと誠実でない

医療

不安町の実データ
子の急病町内に二次救急が3病院(北広島病院、大朝ふるさと病院、千代田中央病院)。広島県保健医療計画上の正式な位置づけ(安佐山県高田地区、令和6年4月1日現在)[8]。北広島病院に産婦人科・小児科あり[8]。医療機関13(病院5・診療所8)、歯科11[14]
高リスク分娩総合周産期母子医療センターは県立広島病院と広島市立広島市民病院の2施設のみ[8]町からの所要時間は未確認。ガイドブックには必ず入れる
乳幼児の医療費確認できたのは6〜18歳が対象の子ども医療費支給条例のみ[11]。0〜5歳の助成制度の存否が確認できていない。町に確認が必要

教育と進学

不安町の実データ
学校が減っていないか統廃合が2件進行している。 豊平小学校・豊平中学校は令和6年度に統合されて豊平学園(義務教育学校)に[12]。新庄小学校は2025年3月末で閉校し大朝小学校へ統合(151年の歴史に幕)[13]町の学校マップページは2022年5月更新のままで「小学校8校・中学校5校」と表示している。実際は小学校6校・中学校3〜4校・義務教育学校1校
高校の選択肢3校。県立千代田高等学校(神楽部あり。生徒数152名・募集定員80名という数字は受験情報サイト経由の二次情報で、学校公式では確認できていない)、県立加計高等学校芸北分校(全国募集、生徒の約7割が地域外出身とされる(公式資料では確認できていない)、地域住民が資金を出し合って設立した自治寮・雄学館と みなこ館、神楽部あり)、私立 広島新庄高等学校(寮あり、硬式野球部は甲子園6回出場)[38]。ただし芸北分校は総合戦略で「存続の危機」とされる[2]
学力・体力小5体力・運動能力調査で町 男61.18・女64.35 対 全国 男55.62・女57.12。5つの学年で県下1位。図書館児童書蔵書は住民1人あたり1.74冊 対 全国0.58冊[14]
保育認定こども園・保育所10か所、待機児童0人(移住情報サイト経由の数字で年次の記載がない。町への確認が必要)。病児・病後児保育室「ユーカリ」(町内在住500円、連続5日まで)[38]令和8年9月から全園児の保育料・副食費が無償化[10]

住まい

不安町の実データ
家が見つかるか空き家バンクに40件登録。売買10万〜600万円、賃貸は月2万円台の例あり[39]。公示地価は住宅地21,600〜24,300円/㎡、商業地32,500円/㎡(令和8年)[9]
改修費が読めない空き家活用定住促進事業補助(事業費の1/3・上限100万円、49歳以下、取得後1年以内、3親等以内の親族からの取得を除く、施工業者は町内)[5]ただし「工事額が倍以上に膨らむケース」という記録があるので、見積の取り方を書く必要がある
試してから決めたいおためし住宅は令和6年3月31日で事業終了している[38]。お試しステイ支援制度(2泊以上)は現存。東広島市・大崎上島町・鳥取県が「試してから決める」導線を持つのに対し、この町は現在それを欠いている。ガイドブックがその代替を担う必要がある

地区の付き合い

不安町の実データ
濃すぎないか「地域の方からすると何者かわからず、壁を作られた時もありました」[19]。Uターン者は「監視されている感じが嫌でした」が「半年、1年を過ごすうちに」変わったと語る(原文は第6章の引用[46])。現行ガイドブックは「あいさつが大事!」「行事やイベントが多い地域だったり、草刈りや家の修繕が必要だったりすると、やることは多いかもしれません」[14]
何に参加するのか地区ごとに違う。行政区単位で書く必要がある(移住実績が確認できた行政区: 吉木、志路原、大朝、本地、戸谷、阿坂、中祖、春木、雲耕、荒神原、雄鹿原)[15]
入っていける入口があるか神楽。北広島町神楽協議会の登録は51団体(町のプレスリリースでは63団体、観光協会は約70団体とし数字が一致しない。要確認)。壬生の花田植は2011年ユネスコ無形文化遺産登録、安芸のはやし田も国指定[38]千代田高校と加計高校芸北分校に神楽部があり、進学が継承の入口になっている[38]

夫婦の温度差

不安町の実データ
配偶者が乗り気でない現行ガイドブックの Step.3「家族の合意は?」 が既にこの論点を扱っている[14]現行のペルソナシートには無かった論点が、10年前のガイドブックにはあった
移住後に無理が来ないか第1章の事例。移住後に農業・保育・猟の三重就労となり、体調を崩して町を離れている[17][18]。「田舎に行けばゆとりができる」を無条件に書かないための実例(掲載は本人の許諾を前提とする)

親の介護・帰省

不安町の実データ
実家との距離広島市からなら車40〜55分。東京からは新幹線と高速バスで片道5時間前後。この差を明示する

6-3. この章の設計原則

不安を書いて、そこで終わらせない。 現行ガイドブックの弱点は、デメリットに触れていないことではなく(触れている)、触れたあとに数字がないことである。

不安は消せない。判断できる形に変えるだけである。

第7章 ガイドブックの章構成へ

机に置かれた白紙の中綴じ冊子と定規と鉛筆

7-1. 現行ガイドブックの評価

項目状態
名称「ねぇ、北広島町のこと、どぉ思ぉとるん?」(サブ「このまちで、家族暮らしをはじめよう」)
発行平成28年4月1日。約10年前。改訂履歴の記載なし[14]
ページ数16ページ
デメリットへの言及あり(きたひろ暮らしの予備知識 その1〜5)
移住手順あり(Step.1〜6。Step.3は「家族の合意は?」)
移住者インタビュー4件+住民2件+匿名3件
想定読者の明示弱い。属性を切っていない
「ペルソナ」の語全16ページで一度も出現しない
補助金の金額記載なし(町サイトの支援制度ページにも金額がない)

引き継ぐべきもの: Step.1〜6の骨格、予備知識その1〜5の枠組み、生活費の月次実額モデル、教育データの全国比較(図書館蔵書・体力調査)、地元住民の声、方言のページ。

直すべきもの: 10年分のデータ更新(学校数は統廃合前のまま)、デメリットに数字を入れる、読者を切る、補助金の実額を書く。

7-2. 章構成案

総務省の6段階[23]を骨格に、現行のStep.1〜6を対応させ、第6章の対応表を中身として流し込む。

段階[23]現行手順[14]提案する章中身
①移住関心層への広報Step.1 移住目的を明確にこの町は誰に向いているかP1/P2/P3を読者が自己判定できる形に。N1(勤務先を変えずに東京から)には向かないと明記する
②情報収集Step.2 北広島町を知る地区で何が違うか行政区単位の積雪・買い物・通勤時間・学校・付き合い。現行の一段落を数字の表に置き換える
③仕事Step.5 住まいと仕事探し仕事は本当にないのか昼夜間人口比率107.2%、事業所と規模、求人の出し方、就農・創業支援、サテライトオフィス。不安の1位と3位なので最厚にする
④住まい・生活Step.5家と、月にかかる金空き家バンク40件の価格帯、改修補助の実額と条件(3親等除外を含む)、公示地価、生活費モデル(更新版)、灯油とプロパン
⑤心理面Step.3 家族の合意は?決める前に話しておくこと夫婦の温度差、配偶者の仕事、地区の付き合いの実際(時間軸つき)、移住後に無理が来た事例(掲載は本人の許諾を前提とする)、住民の声
⑥決断Step.4 来訪 / Step.6 手続き試す・決める・動くお試しステイ、相談窓口(まちづくり推進課 地域づくり係 0826-72-7358、LINE)、北広島暮らしアドバイザー、手続きの順序、おためし住宅が終了している事実と代替

7-3. 検討段階で分けるという選択肢

島根県はガイドブックを2冊に分けている[41]

行動変数V9(検討段階)で読者を割るという設計である。 16ページ1冊で全段階に応えるのは無理があるので、1冊のままなら前半を関心層、後半を検討層に明確に分ける構成が現実的である。

7-4. 差別化になるのはどこか

「デメリットを書くこと」自体は、すでに前例がある。 調べた範囲で次の3つが確認できた。

したがって「公的資料でデメリットを書くのは前例がない」という主張は成立しない。 ただし長崎の2例は市および県という広域の案内であり、北広島町の規模の町が地区単位で書いている事例は確認できていない。

差別化になるのは「デメリットを書くこと」ではなく、次の3つである。

  1. 数字で答えること。 「雪が凄い!」ではなく「大朝は年間降雪319cm、八幡は605cm、千代田には観測点がない」と書く。長崎の2例も項目の列挙までで、数字は入っていない。
  2. 地区で分けること。 町内で積雪が約2倍違い、生活利便も地区で差がある。町の規模だからこそ地区単位で書ける。
  3. 読者を切ること。 誰に向けた資料かを明示し、応えられない相手も書く(第5章の対象外ペルソナ)。

第8章 この資料の限界と、次に必要な一次情報

古い木枠の窓の外に山の緑が見える情景

8-1. 限界

  1. 主ペルソナ(P1)の質的データが1件しかない。 出発地の分布では45%を占めるのに、本人の言葉は後藤祐美子さん1件[19]。構造データは厚いが、この層が何を不安に思っているかは推定に留まる。
  2. Web上の情報だけでは、最も件数の多い層が構造的に抜け落ちる(第3章)。
  3. 町の「定住者の声」24件が全件リンク切れ(HTTP 404)で読めなかった[48]。ウェブアーカイブもこの環境からは取得できなかった。
  4. 最新の転入元内訳が公表されていない。 町の公表値は平成17〜22年のもの[1]。昼夜間人口比率107.2%も平成22年国勢調査の値である。
  5. 就業形態の分布に掲載の偏りがある(自営が実態より多く見える)。
  6. 窓口に来たが移住しなかった人の記録がない。 掲載事例には原理的に含まれない。
  7. 未確認の事実が残っている: 乳幼児(0〜5歳)の医療費助成の存否、学校給食費の負担、統廃合後の正確な学校数、神楽団の団体数(51/63/約70で不一致)、町から周産期母子医療センターまでの所要時間、地域おこし協力隊の任期後の進路。

8-2. 町にお願いしたい一次情報(2つ)

(1) 移住相談窓口の問合せログ

これは町だけが持っている、最も価値の高い一次情報である。

窓口には「移住記を書かない人」も来ている。そして移住しなかった人も来ている。 何を聞かれ、何がネックで消えたのかが記録されているなら、それが第6章の対応表の頻度順を決める。現在の頻度順は全国調査の代用値である。

個人が特定されない形(相談内容の分類と件数)で構わない。

(2) 「定住者の声」24件の原本

一覧ページと個別PDFの全件が、2026年8月5日時点でHTTP 404を返した[48]。広島県のサイトからのリンクは生きているのに、飛び先が消えている。町は原本を持っているはずである。(この資料の作成後に復旧している場合はこの指摘を取り下げる。)

この24件には、氏名・出発地・移住先地区までは外部から判明している。足りないのは、地縁・就業形態・きっかけ・不安・本人の言葉である。 これが入ればペルソナはn=25以上の実データに基づくものになり、聞き取りに基づくペルソナ[30]の水準に届く。

あわせて、リンクが切れている事実そのものを報告する。 移住検討者の不安の1位は「働き口が見つからない」(39.4%)であり、先輩移住者がどう仕事を得たかの情報はそこに直接効く。それが24件あるのに、今は誰も読めない。

8-3. あるとさらに良いもの

8-4. 更新の条件

四半期以上の頻度で見直すペルソナは、そうでないものより実際に役立っている[31]。この資料の更新条件を先に決めておく。

更新のきっかけやること
窓口ログが入ったとき第6章の不安の頻度順を実データで置き換える
「定住者の声」24件が入ったときP1の質的データを埋め、行動変数のマッピングをやり直す
直接インタビューができたときP1について5件以上を目標にする(聞き取りに基づくペルソナの下限[30])
統廃合・制度改正があったとき該当箇所の数字を差し替える
年1回積雪の平年値、地価、制度の年度更新を確認する

英国政府デジタルサービスは、同種のペルソナを公開したときにこう書いていた[36]

新しいデータが入ってくるたびにこのペルソナを発展させ続け、それがどう変化していくかをブログで発信していく。

この資料も同じ性質のものである。第一版であり、完成品ではない。

付録 人物カード5体

なぜ「詳細な人物像」を今の順序で作るのか

この資料は役所版ペルソナシートを「名前・見た目・嗜好が先に決まり、行動データが後付け」だと診断した(文献調査で整理した「ダメなペルソナの兆候」の3番目)。

だから詳細な人物像を作ること自体が、その批判に自分から当たりに行く行為に見える。

そうならない条件が2つある。

条件1: 順序。

標準手順のStep 5はこう書いている。

ゴール・行動パターン・環境・態度を先に固め、名前や見た目は最後に最小限だけ加える。

行動(9つの行動変数)・4つの力・状況文は第5章で先に固めた。 したがって今が「最後に名前と見た目を加える」段階であり、順序としては正しい位置にいる。

条件2: 紐付け。

キム・グッドウィン(Kim Goodwin)の基準は「詳しく書くな」ではない。

記述のどの部分も実際のデータに結び付けられないなら、それはペルソナではない。創作物であり、重要な設計判断や事業判断の材料に使ってはならないものである。[26]

問われているのは記述が実データにたどれるかであって、記述が細かいかではない。 そしてチャップマンとミルハムの反証不可能性批判への対処として、標準手順のStep 8はこう定めている。

ペルソナ記述の一文ごとに「どのインタビューの発言・行動に基づくか」の出典台帳を残す。

この付録は出典台帳を、あとから付けるものではなく本体の構造そのものにしている。 各項目の右端に由来記号を置き、カード末尾に台帳を持つ。 役所版との差はここに出る。役所版は詳しすぎたのではなく、詳しさに出典がなかった。

由来記号(全カード共通)

記号意味判断材料に使えるか
【実】一次情報にその事実がそのまま書かれている。出典番号を付す使える
【合】複数の事例・統計から合成した。個別の1件ではないが、方向は根拠がある。出典番号を付す使える。ただし「傾向」として扱う
【設】設定。物語を成立させるための創作。根拠はない使ってはならない。誌面の判断根拠にしない

【設】の役割は、読者像を1人の人間として想像できるようにすることだけである。 【設】の項目を根拠に誌面を決めた瞬間、この資料は役所版と同じものになる。 会議で「この年収はどこから出たのか」と問われたら、【設】と答える。

読み方の注意

[役所] は、意見交換会で配布された役所版ペルソナシート(第1章で扱ったもの)の文字起こしを指す。 数字の出典番号([1]〜[49])とは別の記法であり、リンクにしていない。

5つの肖像はすべて実在の人物ではない。生成AIによる架空の画像である。

P1(主ペルソナ) 中村 亮平さん・佳奈さん夫婦

早朝の民家の玄関前に立つ38歳の男性と35歳の女性。男性は通勤前のワイシャツ姿で車の鍵とかばんを持ち、二人の視線は合っていない
架空の人物である。 画像は生成AIによる。実在の人物ではない。

この町がいちばん多く受け入れている層。

出発地の分布で広島市が10件・45%を占める[15]

この層は移住記を書かないので、質的データが1件しかない(本文5-2)。

したがってこのカードは5体のうち最も【設】の比率が高い。そのこと自体が、町の窓口ログを取るべき理由である。

基本情報

項目内容由来
氏名中村 亮平(なかむら りょうへい)/ 中村 佳奈(なかむら かな)【設】架空
年齢夫38歳 / 妻35歳【設】
家族構成長女6歳(小学1年)、長男3歳(保育園)【設】ただし「子の就学」を移住の契機に置くのは本文5-2の契機と一致
移住前の住まい広島市安佐南区の賃貸2LDK(家賃8万2千円+駐車場1万円)【合】出発地は広島市が45%、安佐南区・安佐北区が中心[15]。家賃額は【設】
移住後の住まい千代田地区の空き家(築42年・木造2階・売買280万円・改修見込み600万円)【合】空き家バンク40件・売買10万〜600万円[39]。個別物件は【設】
夫の仕事広島市西区の建材商社の営業。移住後も転職しない【合】全国調査で移住者の53.4%は転職していない[21]。勤務先は【設】
妻の仕事移住後に町内の製造業へパート勤務(週4日)【合】町内に雇用がある。広島イーグル202名・年間休日115日、熊平製作所千代田工場27名、イノアック[38]。勤務先は【設】
世帯年収移住前620万円 → 移住後640万円(妻の勤務時間が増えるため)【設】この額に根拠はない。 ただし「移住で下がらない」という向きは根拠がある(58.6%が年収変化なし[21])
2台(移住前は1台。移住に伴い妻用に軽自動車を追加)【合】デマンド交通は一乗車500円だが通勤には使えない[40]。台数は【設】
地縁なし。妻の職場の同僚が大朝出身、という程度【合】広島市出身・地縁なしで空き家バンクから取得した実例がある[19]

役所版との比較のために項目立てを揃えてある。

役所版は世帯年収900万円・東京23区・無印良品・Voicyだった[役所]。

同じ形式で書いても、由来記号が付くだけで資料としての性質が変わる。 これが会議で見せたい一点である。

9つの行動変数(本文5-2と一致)

変数この夫婦での具体形
V1 就業勤務先を変えず継続 / 町内へ現地就職夫は継続、妻は現地就職。1世帯で両方の値を取る
V2 出発地広島市安佐南区
V3 地縁なし〜友人・知人程度なし
V4 契機子の就学・第2子の出生・住宅取得の検討長女の小学校入学と、市内で家を買えないと分かったことが同時に来た
V5 住まい空き家バンク / 町営・若者定住促進住宅空き家バンク
V6 通勤広島市へ通勤 / 町内で働く夫は広島市へ、妻は町内。1世帯で両方
V7 冬季運転なしなし。これが地区選びを決めている
V8 意思決定夫婦の合意(どちらかが牽引)牽引は佳奈さん。拒否権は亮平さんが持つ
V9 検討段階能動的探索空き家バンクを週1回見る段階

平日の1日(移住後)

時刻行動由来
6:10亮平さん起床。前夜に雪が降ると、まず外を見て道路の状態を確認する【設】ただし冬季運転の経験なしは本文5-2
6:50亮平さん出発。千代田ICから広島市中心部まで車で約40分[14]、経路によっては千代田運動公園〜広島駅で55分・51.2km・高速1,210円【実】所要時間[14]と経路検索の二次情報
7:30佳奈さんが長女を小学校へ、長男を認定こども園へ送る【合】認定こども園・保育所10か所[38]
8:40佳奈さん出勤(町内・車10分)【設】
15:30佳奈さん退勤、こども園へ迎え【設】
18:30亮平さん帰宅。往復で1時間20分から1時間50分を車の中で使っている【実】通勤時間から算出
21:00子が寝てから、翌日の雪の予報を見る【設】

この動線から誌面の要件が2つ出る。 1つは通勤時間を「40分」ではなく「起点・終点・経路つきで」書くこと(現行ガイドブックは千代田ICから広島市中心部まで40分、経路検索では55分。起点が違うので両方載せるしかない)。 もう1つは保育園・小学校・職場・幹線道路の位置関係を地区別の地図で出すことである。

冬の1日(移住1年目・1月)

八幡(標高774m)の1月の降雪は201cm・最深積雪99cm、大朝(標高399m)は125cm・39cmである[6][7]千代田地区には気象庁の観測点がなく、公式数値が存在しない(本文5-2)。

つまりこの夫婦が住む予定の地区の積雪を、この資料は数字で答えられない。

これは人物像の欠陥ではなく資料の欠陥であり、このカードを会議に出すと、その欠落が人の生活として目に見える形になる。 町と埋め方を決める箇所である(本文6-3)。

4つの力

押す力

市内の賃貸2LDKに4人は手狭。市内で家を買うと予算が届かない。保育園・職場・家が三角形に離れている

【合】本文5-2の押す力。役所版の感情描写の解像度をここに移植した(本文1-7)

引く力

転職せずに通える(車40〜55分)[14]。公示地価は住宅地21,600〜24,300円/㎡[9]。空き家バンク40件・売買10万〜600万円・賃貸月2万円台[39]令和8年9月から全園児の保育料・副食費が無償化[10]。町内に雇用がある(昼夜間人口比率107.2%、広島市から2,121人が通勤流入。平成22年国勢調査)[1]

【実】

不安役所版はゼロ

①雪道を運転したことがない。②千代田地区がどれだけ降るのか誰も数字で答えない。③長男が夜に熱を出したらどこへ行くのか。④長女が高校に上がる10年後に町の高校が残っているのか。⑤地区の付き合いがどれくらいか、行政区ごとに違うと聞くが調べる方法がない。⑥冬の光熱費とガソリン代がいくら増えるのか

【実】本文5-2の不安[22][47][19]、6-2の各行

慣性役所版はゼロ

今の家でも一応4人で暮らせている。引っ越しと手続きが面倒。地区を選ぶ判断材料がないので、決めようとするたびに保留になる

【実】本文5-2[21]

不安⑥への答えは町が持っている。 生活費の実額例(家賃+駐車場35,000円/月、水道8,000円/月、ガス8,000円/月、ガソリン15,000円/月)は現行ガイドブックにある[14]ただし2016年の数字なので、そのまま載せられない。更新が必要である。

意思決定(誰が拒否権を持つか)

役所版の最大の構造的欠陥は、夫が「優しいが解決策ばかり言うIT職」という小道具になっていたことである(本文1-4)。 移住は世帯の意思決定であり、拒否権を持つ側を描いていないペルソナは意思決定モデルとして機能しない。

持っている力
牽引佳奈さん探す・調べる・提案する
拒否亮平さん通勤が続けられないと判断したら止める。冬に会社へ行けない日が出ると分かったら止める

したがってガイドブックは、牽引者ではなく拒否権者に向けたページを持たなければならない。 現行ガイドブックのStep.3「家族の合意は?」が既にこの論点を扱っている[14]現行のペルソナシートには無かった論点が、10年前のガイドブックにはあった(本文6-2)。

状況文(本文5-2から転記)

そのとき 子どもが増えて広島市内の賃貸が手狭になり、市内で家を買うには予算が届かないと分かったとき、
したいこと 今の勤め先を辞めずに、車で通える範囲で広い家に住みたい。
そうすれば 収入と職歴を切らさずに、子どもに庭のある家で育つ時間を渡せる。

情報行動

何を見るか由来
空き家バンクの検索ページを週1回[39]【合】V9が能動的探索であることから
広島市側の不動産ポータル(比較対象は町ではなく安佐北区の中古戸建)【設】ただし「比較相手が他の移住先ではなく広島市内である」という点は、V2が広島市であることから導ける
町の窓口には行く。ただし何を聞いたかの記録が残っていない【実】町の窓口ログが未入手(第3章3-2で「取れなかったもの」として挙げた項目)
移住記を書かない。SNSで発信しない【実】この層は出発地の45%を占めるのに質的データが1件しかない(本文5-2)。発信しないことが、町がこの層を把握できていない理由である

この行は誌面ではなく町の運用に効く。

P1は最も多い層でありながら、最も観測されていない層である。

ガイドブックが打てる手(不安と慣性にだけ効く)

ガイドブックが動かせるのは不安と慣性だけである(本文1-2)。

対象打つ手
不安① 雪道冬季運転の準備(タイヤ交換の時期、除雪路線図、通勤ルートの代替)を実務手順で書く
不安② 地区差観測点別の積雪表を載せる。千代田地区に公式数値がないことは、無いと書く(本文6-3)
不安③ 医療二次救急3病院(北広島病院・大朝ふるさと病院・千代田中央病院)の所在と診療科[8]、病児保育室「ユーカリ」[38]
不安④ 高校千代田高等学校・加計高等学校芸北分校・広島新庄高等学校の3校と、芸北分校が総合戦略で「存続の危機」とされている事実[2]の両方
不安⑤ 付き合い行政区単位で書く。神楽が入口になっている[38]
不安⑥ 光熱費生活費の実額を更新して載せる[14]
慣性手続きの順序と所要日数を1ページにする。地区を選ぶための比較表を用意して「決められない」状態を解く

出典台帳

P2(副ペルソナ) 大西 陽一さん・千尋さん夫婦

古い民家の土間の木工工房で並んで立つ43歳の男性と40歳の女性。男性は作業エプロン姿、女性は焼き菓子の盆を持っている
架空の人物である。 画像は生成AIによる。実在の人物ではない。

事例がもっとも厚い層(8件)。

本文5-3の実例表7件のうち6件が大朝・豊平に集積し、残る1件は芸北である[16][14][15]

この集積そのものが、この層の入りやすさを示している。

基本情報

項目内容由来
氏名大西 陽一(おおにし よういち)/ 大西 千尋(おおにし ちひろ)【設】架空
年齢夫43歳 / 妻40歳【設】ただし43歳という設定には意味がある。空き家活用定住促進事業補助は49歳以下が要件[5]50歳を超えると使えない
家族構成長男9歳、長女5歳【設】
移住前神奈川県横浜市の賃貸(夫は家具メーカー勤務、妻は製菓の仕事)【合】実例に横浜からの木工職人[14]、栃木/横浜経由[16]がいる。職種は【設】
移住後大朝地区。妻の祖父母の家屋を取得して、住まいと工房を兼ねる【実】実例は大朝・豊平に集積[16][14]。地縁として「配偶者の実家」「親族の家屋」が実在[16]
仕事夫が家具・建具の修理と製作、妻が焼き菓子の製造販売(週3日営業)【合】実例に木工職人[14]、ベーグル店・宿[16]、酒蔵復活[16]、木版画[16]、画家+草刈・林業[16]「作って売る」+「複数の収入源」という形は事例に共通する
世帯年収移住1年目280万円、3年目420万円の見込み【設】根拠はない。 ただし「収入が読めない」ことは実例の不安として実在(本文5-3)
地縁あり(妻の祖父母の家屋)【実】親族の家屋という地縁は実例にある[16]

9つの行動変数(本文5-3と一致)

変数この夫婦での具体形
V1 就業自営・起業 / 持ち運べる専門職自営。夫婦で別々の商売を持つ
V2 出発地中国地方外(東京、横浜、栃木、山口)横浜市
V3 地縁配偶者の実家 / 親族の家屋 / なし妻の祖父母の家屋
V4 契機志向 / 家業・相続 / 人生観の転換祖父母が施設に入り、家が空くと決まったこと
V5 住まい空き家バンク / 親族の家屋親族の家屋
V6 通勤通勤なしなし。住まいと工房が同じ
V7 冬季運転なし(移住後に習得)なし
V8 意思決定夫婦の合意牽引は陽一さん。拒否権は千尋さん(祖父母の家である以上、親族との調整は千尋さんの側にしかできない)
V9 検討段階決断済みで来る場合が多い決断済み。すでに退職日を決めている

この人物が踏む制度の落とし穴(このカード最大の産物)

空き家活用定住促進事業補助は「3親等以内の親族から取得した者は除く」[5]。 一方でUターン奨励金は「過去に北広島町に住民票があった16歳以上39歳以下」に限られる[4]大西さん夫婦はどちらも受け取れない可能性が高い。

制度大西さん夫婦の該当
国の移住支援金対象外。北広島町は対象18市町に含まれない[3]
Uターン奨励金対象外。 過去に町に住民票がなく、夫は43歳で年齢要件(39歳以下)も外れる[4]
空き家活用定住促進事業補助要確認。 妻の祖父母は姻族2親等であり「3親等以内の親族」に当たると読める。姻族を含むかは要綱の解釈次第で、この資料では判定できない[5]
創業支援補助(上限30万円)該当しうる[38]

この1点を町に確認する必要がある。 確認事項は「空き家活用定住促進事業補助の『3親等以内の親族』に姻族を含むか」である。 含むなら、この層のうち配偶者の親族の家に入る人は住宅改修の補助を受けられない。

本文5-3が「この層の一部が制度の隙間に落ちる」と書いた箇所の、具体的な当てはめである。

4つの力

押す力

都市の家賃と時間が制作・営業の足を引っ張る。勤め人として作るものを自分で決められない

【実】本文5-3

引く力

空き家改修補助(事業費の1/3・上限100万円、49歳以下)[5]。空き家バンク40件[39]。創業支援補助(上限30万円)[38]同じ型の先行者が大朝・豊平に8件いる[16][14]

【実】

不安役所版はゼロ

①客が来るのか。②改修費が見積を超えないか(「見た目以上に構造部・水回りの劣化が進んでいる」「工事額が倍以上に膨らむケース」という記録がある)。③収入が読めない。④補助が使えるのかどうか自分では判定できない。⑤子2人の転校

【実】本文5-3、6-2の住まいの行

慣性役所版はゼロ

今の勤め先でも一応やれている。物件の状態を見極める手間。祖父母の家の権利関係を親族間で整理する面倒

【合】本文5-3の慣性+親族の家屋という地縁から導出

状況文(本文5-3から転記)

そのとき 自分の仕事を自分の手で立てられると分かり、都市の家賃と時間がその邪魔になっていると気づいたとき、
したいこと 仕事場と住まいを兼ねられる古い家を、手を入れられる条件で手に入れたい。
そうすれば 生き方と仕事の中身を一致させられる。

実例の本人の言葉[16]

移住するなら、敢えて不便な場所が良いと思っていました。自然が厳しく、生活にメリハリのある環境(島田愛子さん)

もっと田舎でもやっていける(森田歩武さん)

情報行動

何を見るか由来
町のサイトより先に、先行者の発信を読む【実】この層は移住記・インタビューが8件残っている[16][17][18][14][15]発信する層である
補助制度の要綱本文を読む(概要ページでは判定できないため)【合】制度の噛み合わせが複雑であることから
改修業者を探す。空き家活用定住促進事業補助は施工業者が町内に限られる[5]【実】

P1と正反対である。

P2は発信するから見つけやすく、だから事例が8件も集まった。

事例の厚さは実際の人数の多さではなく、発信量の多さを反映している可能性がある。

本文3-3が書いた収集方法の構造的な弱点が、ここに出ている。

ガイドブックが打てる手

対象打つ手
不安② 改修費見積の取り方を書く。「構造部・水回りを先に見る」「相見積もりを取る」「補助の対象経費と対象外を分けて示す」
不安④ 制度制度の対象・非対象を表で出す。「地縁がある人は住宅補助が使えない場合がある」という噛み合わせを隠さずに書く
不安① 客町内の商圏規模(人口約1万6千人)[1]、観光の入込、スキー場の状況[38]を数字で出す。芸北国際スキー場は2020年初旬の営業を最後に休業(雪不足)。芸北高原大佐スキー場は2026年2月21日で今季終了。やわたハイランド191リゾートは異常高温で2026年3月1日に早期終了[38]高温を理由として確認できているのはやわたハイランドのみである。大佐スキー場の終了理由は書かれていない。「客が来る」と書けない事実を書く
慣性空き家の権利関係(相続未登記・共有名義)の整理手順を書く

出典台帳

P3(副ペルソナ) 岡田 まどかさん

雪の積もった町営住宅の前で1人雪かきのスコップを持って立つ31歳の女性。表情は硬く、足跡が1人分だけ雪に残っている
架空の人物である。 画像は生成AIによる。実在の人物ではない。

地縁がなくても成立している層。ただし町が仕事と役割を用意している。

基本情報

項目内容由来
氏名岡田 まどか(おかだ まどか)【設】架空
年齢31歳・単身【合】実例は30代[20]。単身はV8「本人単独が多い」から
出発地大阪府大阪市【合】実例は熊本市[20]、東京[37]。中国地方外という値[本文5-4]に合わせた
移住後芸北地区の町営住宅【実】V5は町営・賃貸[本文5-4]
仕事地域おこし協力隊。任期3年。 担当は町の情報発信と、高校の魅力化【実】実例に高校魅力化・下宿運営(任期3年、2020年着任)[20]、生物多様性の保全・調査[37]、元フリーライター[37]
収入協力隊の報酬。任期後の収入は決まっていない【実】任期後の進路が町の公表資料に見当たらない(本文5-4)
地縁なし【実】実例も地縁なし[20]
移住後に中古の軽自動車を購入。運転歴はあるが雪道はない【合】V7は冬季運転なし

9つの行動変数(本文5-4と一致)

変数この人物での具体形
V1 就業公的枠(地域おこし協力隊) / 持ち運べる専門職公的枠。 この人物は協力隊の側の値を取る
V2 出発地中国地方外大阪市
V3 地縁なしなし
V4 契機仕事の公募募集要項を見て応募した
V5 住まい町営、賃貸町営
V6 通勤町内で働く町内
V7 冬季運転なしなし
V8 意思決定本人単独が多い単独。拒否権も本人が持つ
V9 検討段階決断済み(採用が決まって来る)決断済み

この層だけ、意思決定に配偶者が関与しない。

したがってガイドブックの「家族の合意」ページはこの層には効かない。誌面の役割が層ごとに違うという実例である。

冬の生活(このカードの核心)

芸北地区にはアメダス八幡がある(北広島町東八幡原、海抜774m)[7]年間降雪の深さ合計605cm、年間最深積雪120cm、1月の降雪201cm・最深積雪99cm(気象庁1991〜2020年平年値)[6][7]。 大朝(399m)の319cm/50cmと約2倍の差がある。

単身で、雪道の運転経験がなく、除雪を代わってくれる人がいない。

北海道へ移住した当事者の記録がこの構造を裏づける[47]

降り続くと1〜2時間の除雪を日に3回程やる時もある[47]

そして家にいる時間が長い私が大体除雪を担当する事になる[47]

この2つの引用は、除雪が世帯内の誰かに偏る話として記録されている。

単身者の場合、偏る先が本人しかない。

本文6-2は「除雪が誰の仕事になるかは、移住前に決めておく論点である」と書いた。 単身のP3には決める相手がいないので、この論点は「町営住宅の除雪はどこまで町がやるのか」という制度の問いに変わる。

これは資料に書いていない。町に確認する事項として追加する。

4つの力

押す力

都市の組織で自分の仕事の手触りが薄い

【実】本文5-4

引く力

任期と役割が明確。住まいの手配がある。サテライトオフィスの貸出4室は2025年12月時点で満室[37]

【実】

不安役所版はゼロ

任期後に何をするのか。②地縁ゼロで受け入れられるか。③単身で冬を越せるか。④町営住宅の除雪は誰がやるのか。⑤3年で成果を出せと言われるが評価の基準がない

【実】本文5-4+積雪データ[6][7]から導出

慣性役所版はゼロ

今の仕事を辞める決断の重さ。大阪の友人関係を手放すこと

【実】本文5-4+【設】

不安①に町は答えを持っていない(そのまま書く)

地域おこし協力隊の任期終了後の定住は、全国で同一市町村55.7%(4,477人/8,034人、2019〜2023年度終了者)、近隣自治体を含めて約68.9%とされる。

この数値は総務省調査の集計値を二次情報経由で取得したもので、原典に到達できていない。会議で使う前に原典を確認する(本文5-4)。

近隣を含めても約3割が離れている。

北広島町の任期後の進路を示すデータは見つからなかった。

さらに構造的な問題がある。 任期後に町で起業する導線としてサテライトオフィスがあるが、貸出4室は2025年12月時点で満室である[37]引く力として数えた満室が、任期後の受け皿としては空きがないという意味になる。 同じ事実が、時点によって引く力にも不安にもなる。

事例の扱いに関する注意(本文5-4から引き継ぐ)

町は加計高等学校芸北分校について、協力隊の活動報告で受験者数が定員割れから定員超過へ転換したと記載している(2023年3月)[20]。 一方、令和6年12月策定の第3期総合戦略は同じ分校を「生徒数の減少から存続の危機にある」と記載している[2]時期が近いのに評価が逆であり、指標の違い(受験者数と在籍者数)か一時的な回復かを判別できない。

成功事例として単独で使わず、両方の時点と出典を併記する。

状況文(本文5-4から転記)

そのとき 自分の専門を、規模の大きな組織ではなく手の届く範囲で使いたいと思ったとき、
したいこと 役割と任期がはっきりした仕事で入りたい。
そうすれば 生活の基盤を確保したまま、その土地で自分の居場所を作れる。

情報行動

何を見るか由来
募集要項から入る。移住情報から入らない【実】V4が「仕事の公募」であることから。この層はガイドブックを読む前に応募している
着任後に生活情報を探す【合】決断済みで来るため

この層に対して、ガイドブックは移住を決めさせる道具ではない。

着任後の生活を支える道具であり、離れさせないための道具である。

誌面の目的が層ごとに違うという、いちばんはっきりした例である。

ガイドブックが打てる手

対象打つ手
不安① 任期後町の協力隊の任期後の進路を町が調べて載せる。 全国値だけでは答えにならない
不安③④ 冬地区別の積雪[6][7]、町営住宅の除雪の範囲、除雪路線図
不安② 地縁神楽を入口として書く[38]千代田高校と芸北分校に神楽部があり、進学が継承の入口になっている[38]
慣性この層には効かない(決断済みで来る)。代わりに「着任後3か月の手引き」が要る

出典台帳

N1(対象外ペルソナ) 佐々木 美咲さん

夜の狭いリビングでノートパソコンに向かう36歳の男性と、少し離れて立つ34歳の女性。二人の視線は合っていない
架空の人物である。 画像は生成AIによる。実在の人物ではない。

この町が応えられない相手を明示する。

アラン・クーパー(Alan Cooper)の分類にある対象外ペルソナは、対象にしないと決めた層を書くことで設計のブレを防ぐためのものである[34]

このカードだけ、氏名を引き継ぐ

このカードの人物像は、役所版ペルソナシートの佐々木美咲さんをそのまま引き継ぐ[役所]。

新しく作らない。理由は3つある。

  1. 本文5-5が「現行のペルソナシートの人物像は、ここに該当する」と判定している。 別人を作ると判定の対象が消える。
  2. 本文1-7で「感情描写の解像度は行政資料として異例に高い。素材として捨てる必要はない」と書いた。 引き継ぐと言った以上、引き継ぐ。
  3. 役所版を否定するのではなく、足りない4項目(不安・慣性・行動変数・制度の当てはめ)を足すと何が見えるかを示すのが、この資料の主張である。

役所版の記載は改変しない。以下の表で「役所版にある」と書いた行は文字起こし[役所]の内容である。

ただし基本情報表は原本の逐語、4つの力の押す力・引く力の2行は原本の3〜4文を要約したものである。 逐語が必要な場面では、配布された原本にあたる。

基本情報(役所版の記載+追加分)

項目内容由来
氏名佐々木 美咲(ささき みさき)役所版にある[役所]
年齢 / 属性34歳 / 主婦・パート役所版にある[役所]
家族構成夫36歳(IT職)、長男4歳、長女2歳役所版にある[役所]
住まい東京23区の賃貸2LDKマンション役所版にある[役所]
世帯年収900万円(夫700万 / 妻200万)役所版にある[役所]
職業運送会社パート事務(週4日 9:00〜15:00)役所版にある[役所]
好きなもの無印良品、観葉植物、カフェラテ、Voicy役所版にある[役所]
夫の勤務形態未確定。 役所版は「在宅で仕事する夫」と書いているが、移住後もその働き方を続けられるかは書かれていない【実】本文1-4。ここが空白ではなく「未確定」である点が決定的
実家の所在役所版に記載なし【実】役所版の欠落項目[役所]
比較検討先余白に手書きで「ぐんま」「しずおか」とだけある【実】[役所]

9つの行動変数を当てると5つが空白になる

役所版に9変数を当てると5つが空白になる(配布された1枚の記載範囲では。本文1-4)。

変数役所版の記載判定
V1 就業「在宅で仕事する夫」未確定(示唆はあるが手段の話がない)
V2 出発地東京23区あり
V3 地縁記載なし空白
V4 契機記載なし空白
V5 住まい記載なし空白
V6 通勤記載なし(夫の在宅勤務の可否に依存)未確定
V7 冬季運転記載なし空白
V8 意思決定妻の感情のみ。夫は「解決策ばかり言うIT職」片側のみ
V9 検討段階記載なし空白

この人物が対象外になる根拠

項目事実出典
距離東京から広島駅まで新幹線で約4時間(のぞみの平均所要3時間54分)、さらに高速バスで約1時間。片道5時間前後[49][40]
通勤新幹線通勤が成立しない。高崎は東京駅から42〜59分、みなかみ町と富士宮市は新幹線通勤費を補助している[43]
国の支援金北広島町は対象18市町に含まれていない(隣接する安芸太田町は対象)[3]
町の奨励金Uターン奨励金は「過去に町に住民票があった16〜39歳」限定。美咲さんは対象外[4]
町の方針総合戦略に「東京23区」の語が一度も出てこない。数値目標は出発地を問わない[2]
実例遠方から定着した事例は全員が自営・専門職・協力隊。会社員のまま移った事例は0件[15][16][14]
反証「田舎に行けばゆとりができる」は、移住して体調を崩し町を離れた実例で反証されている[17][18]

距離そのものが商品として成立しない。 群馬・静岡が新幹線通勤を訴求できるのに対し、この町には対応する手段がない[43]

4つの力(役所版に不安と慣性を足す)

押す力

家が狭くて子を静かにさせなければならない。時間に追われる。公園が混む。夫が寄り添わない。社会からの置いてけぼり感

役所版にある[役所]。厚い

引く力

広い家。職住保育15分圏。温かい見守り。自分の書斎。夫婦の余白

役所版にある[役所]。厚い

不安役所版はゼロ。ここを足す

①夫の在宅勤務が5年後も続くのか。会社の方針が変わったら片道5時間になる。②長男が来年小学校に上がる。③実家(東京圏)まで片道5時間になる。親が高齢になったときどうするのか。④雪道を運転したことがない。⑤収入が下がったら住宅ローンが組めない

【合】本文6-1の全国調査の不安順位[22]+距離[49][40]から導出

慣性役所版はゼロ。ここを足す

東京23区の賃貸2LDKでも一応4人で暮らせている。夫の職場が東京にある。長男の保育園を変える手間。「ぐんま」「しずおか」と書いた時点で、比較して決められない状態にある

【実】[役所]の手書きメモ+本文1-2

不安と慣性を足すと、この人物は移住しない。

役所版は不安と慣性がゼロだったので、判定式(押す力+引く力>不安+慣性)が必ず成立していた。つまり必ず移住する人物だった。

足すと成立しなくなる。これが対象外ペルソナである理由の全部である。

否定しているのは「東京から」ではない

否定するのは「勤務先を変えずに」である。

東京都からの移住は3件実在する[15]

渡邉ニコルさん(平成21年、東京都→芸北、異文化コンサルタント)[14]、島田愛子さん(東京都→大朝、木版画作家)[16]もいる。

自営・在宅勤務で完結・地縁のいずれかがあれば成立する。

したがって美咲さん夫婦は、夫の勤務形態が確定した瞬間に別のカードへ移る。

夫の勤務形態移る先
完全に在宅勤務で完結するP2へ移る(持ち運べる専門職。V1が変わる)
出社が必要N1のまま。町は応えられない
退職して自営を始めるP2へ移る

このカードは固定された人物ではなく、条件が1つ変わると対象に入る境界線である。

ガイドブックはその条件を明示すべきで、条件を書かずに東京の会社員世帯を呼ぶと、群馬・静岡に構造的に負ける試合の資料になる(本文5-5)。

ガイドブックが打てる手

打たない。これがこのカードの用途である。

ただし1つだけやることがある。

「勤務先を変えずに東京から通えるか」という問いに、最初の数ページで答える。

答えは「通えない」である。

応えられない相手を書くことは、応える相手への誠実さである(本文5-5)。

在宅勤務で完結する人・自営の人・地縁のある人は成立する、という条件を同じ場所に書く。

出典台帳

S1(受け入れ側ペルソナ) 木原 政義さん

夕方の田の畦に1人で立つ74歳の男性。作業着姿で草刈りの鎌を手に持ち、静かな表情をしている
架空の人物である。 画像は生成AIによる。実在の人物ではない。

移住は片側の意思決定ではない。

クーパーの受け入れ側ペルソナは、自分では使わないが影響を受ける人を指す[34]

移住ガイドブックにおける受け入れ側は、移住してくる側ではなく受け入れる集落の住民である。

基本情報

項目内容由来
氏名木原 政義(きはら まさよし)【設】
年齢74歳【設】
家族構成妻71歳。長男夫婦は広島市在住(年に3〜4回帰る)【合】町は広島市に対して転出超過(転入888人・転出911人)[1]子が広島市にいる構図は転出の実態と整合する
住まい大朝地区。自宅は築60年超の木造【設】
仕事建設業を60代で退き、いまは自家用の田と畑【合】現行ガイドブックに大朝の建設業の方の声がある[14]
地域の役行政区長を2期務めた。いまは神楽団の世話役【合】現行ガイドブックに吉木行政区長の声がある[14]。神楽団は町内に51団体(町のプレスリリースでは63団体、観光協会は約70団体とし数字が一致しない。要確認)[38]
移住者との接点10年で3世帯が地区に入り、1世帯が出て行った【合】移住実績が確認できた行政区は11区に散っている[15]。転出の実例も1件確認[17][18]世帯数は【設】

この人物に4つの力を当てる意味

S1は移住しない。

だから4つの力の対象は「移住するかどうか」ではなく「新しい世帯を受け入れるかどうか」になる。

4つの力

押す力

神楽団の人手が足りない。草刈りの担い手が減った。このままだと行事が続かない

【合】現行ガイドブックが「行事やイベントが多い地域だったり、草刈りや家の修繕が必要だったり」と書いている[14]。人口約1万6千人[1]

引く力

若い世帯が入れば行事が続く。子どもの声が地区に戻る

【設】

不安

①どんな人が来るか分からない。②数年で出て行くのではないか(実際に1世帯が出て行った)。③挨拶や当番の作法が違う人にどう言えばいいのか。④言い方を間違えて「監視されている」と受け取られるのが怖い

【実】移住者側の証言と対応する[19][46]

慣性

いま3世帯が入っても入らなくても、当面は回る。声をかけて断られるほうが気まずい

【設】

移住者側の証言と、この人物の不安は同じ現象である

「温かい見守り」と「監視されている感じ」は、同じ現象の別の時期である可能性が高い(本文5-6)。

移住者側の言葉[19]

地域の方からすると何者かわからず、壁を作られた時もありました

Uターン者の言葉[46]

人との距離感が近くて監視されている感じが嫌でした。むしろストレスに感じていましたよ。ところが半年、1年を過ごすうちに、相手のことを知ることが増え、安心感が大きくなってきました。今では近所付き合いが楽しくて、挨拶したりされたりする生活っていいなと思っています

役所版は「近所の人が温かく見守ってくれ、ワンオペの孤独がない環境」と、後者の時期だけを書いた[役所]。

時間軸を入れないとこの論点は扱えない。

時期移住者から見た景色木原さんから見た景色
0〜6か月何者かわからないと壁を作られる[19]。距離が近くて監視されている感じ[46]どんな人か分からない。声をかけるきっかけがない
6か月〜1年相手のことを知ることが増え、安心感が大きくなる[46]顔と名前が一致してくる
1年以降近所付き合いが楽しい[46]当番と行事に入ってもらえる

この表がガイドブックの誌面になる。

「温かい地域です」と書くのではなく、最初の半年は居心地が悪いと書いて、その先を書く。

状況文(この層のために新しく書く)

そのとき 神楽団の世話役をしていて、若い担い手がこの5年で1人も増えていないと気づいたとき、
したいこと 新しく入ってきた世帯に、負担にならない形で行事の話をしたい。
そうすれば 断られて気まずくなることなく、地区の行事を次の代に渡せる。

本文5-6には状況文がない。このカードで追加した。

追加した理由は、受け入れ側にも「したいこと」があると書かないと、S1が背景の風景になってしまうからである。

ガイドブックが打てる手

移住者向けの誌面と、受け入れ側が読む誌面を分ける。

現行ガイドブックには地元住民の声が2件掲載されている(大朝の建設業の方、吉木行政区長)[14]この設計は正しいので引き継ぐ(本文5-6)。

対象打つ手
木原さんの不安①②移住者側のページに「最初に伝えるとよいこと」を書く(仕事、いつまでいる予定か、家族構成)。地区側が聞きにくいことを、移住者側から出す形にする
木原さんの不安③④地区の当番・行事・草刈りの実際を、地区側の言葉で書いたページを作る。 言いにくいことを紙が代わりに言う
木原さんの慣性神楽を入口として明示する[38]千代田高校と加計高校芸北分校に神楽部があり、進学が継承の入口になっている[38]
移住者側の不安⑤(P1)この表(時期別の景色)をそのまま載せる

出典台帳

5体の比較(1枚で見る)

P1 中村さん夫婦P2 大西さん夫婦P3 岡田さんN1 佐々木さんS1 木原さん
位置づけ対象外受け入れ側
出発地広島市安佐南区横浜市大阪市東京23区(町の住民)
就業の確保勤務先を変えず+現地就職自営公的枠勤務先を変えず(成立しない)(引退)
地縁なし妻の祖父母の家屋なしなし(地元)
移住先の地区千代田大朝芸北大朝
意思決定夫婦。拒否権は夫夫婦。拒否権は妻単独夫婦。役所版は片側のみ(受け入れる/受け入れない)
使える制度空き家改修補助・保育料無償化創業支援のみの可能性(要確認)町営住宅なし
ガイドブックの役割決断の判断材料を出す制度の噛み合わせを説明する着任後の生活を支える応えられないと最初に書く言いにくいことを代わりに言う
【設】の比率最も高い低いゼロ高い

この表の最下段が、資料としてのいちばん正直な自己申告である。

主ペルソナがもっとも創作に頼っている。 理由は本文3-3と5-2に書いたとおりで、この層が発信しないからである。

町の窓口ログが入るまで、P1は暫定である。

品質チェックリストの自己採点

文献調査で整理した「良いペルソナの条件」8項目で、この付録の5体を採点する。

条件この付録根拠
行動パターン・ゴール・環境・態度が中心か9つの行動変数を全カードに置き、人口統計は説明変数として使った
各記述文が実データに紐付くか由来記号と出典台帳。【設】は判断材料にしないと明記した
シナリオまたは状況文とセットか全カードに状況文。S1には新規に追加した
調査参加者が運用場面に関わるか一次情報は公開資料からの収集で、聞き取りを自分で行っていない。ここは埋まっていない
主ペルソナが明確で対象外も言語化されているかP1が主、N1が対象外
更新の頻度と条件が決まっているか町の窓口ログと「定住者の声」24件の原本が入ったら更新(本文8-4)
質的か統計的かを意図的に選んでいるか聞き取りに基づくペルソナを目標とし、現状は公開事例22〜25件に基づく
不安と慣性が書かれているか全5カードに書いた。N1は不安と慣性を足すために作った
観察不可能な内面から書き始めていないか行動変数→動線→4つの力→内面の順で書いた

8項目中7項目が○、1項目が△である。

△は聞き取りを自分で行っていないこと。これは第一版の限界としてすでに本文8-1に書いてある。

役所版は8項目中8項目で不適合だった。ただしこれは「役所が無能」という話ではなく、ジャレッド・スプール(Jared Spool)の調査が示すとおり民間企業でも95%が同じ状態である[29]

このカードから出た町への確認事項(新規2件)

第8章8-2「町にお願いしたい一次情報」に加える2件である。

  1. 空き家活用定住促進事業補助の「3親等以内の親族」に姻族を含むか[5]。 含むなら、配偶者の親族の家屋に入る世帯(P2の型)は住宅改修の補助を受けられない。 この型はもっとも事例が厚い層である。
  2. 町営住宅の除雪はどこまで町が行うか。 単身の協力隊員(P3の型)には除雪を分担する相手がいない。 八幡の1月の最深積雪は99cm[6][7]

出典一覧

北広島町・広島県の一次資料

移住者の記録

全国調査

競合自治体

方法論


数値の取り扱いについて(注記)